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基本週5で在宅勤務している人の雑記

読書メモ-『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』

大分前(去年の8月ぐらい?)に買って積読状態だった『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』を漸く読んだ。

ページ数的には「ブックガイド」含め120ページほどだけど、入門書としては密度が濃いので読み進めるのはそれなりに掛かった。最初に手を付けたのは2023年11月だったけど、読むにはまとまった時間と気合が要るので……。

(記事自体は年跨ぎながらちまちま書いてるけど、書籍自体は何とか年内に読み終えた。)

 

この本、ナチスに興味がなくても、歴史学をかじってる(かじった)人は、冒頭の「はじめに」だけでも良いから読んで欲しい。

特に〈事実〉と〈解釈〉と〈意見〉の項は結構身につまされる話だったというか、頭に入れとかないとな、と思わされる話だった。学生時代の私の顔面に「読め!」とぶん投げてやりたいくらい*1

 

なお、私自身は数年前、ガチの史学系学科ではなかったのだけれど、一応西洋史ゼミに所属して卒論も書いた。

当時テーマにしたのは、1920年代後半のイタリアにおける大衆の体制への「同意」について。今読むと内容が拙すぎて、書き直したくてしょうがないんだけど、あの時はあの時なりに一生懸命調べて文章書いた記憶だけは確かにある。

 

閑話休題

 

それはそれとして。

当時のドイツそのもののことは高校世界史未満レベルの、それもアップデートされていない知識が多いんだけど、それと似た(というより、世界史的にはその先駆けの)イタリアのことをそれなりに調べていたので、体制側の考え方とか背景などを重ね合わせながら読めた。やっぱり歴史学は楽しいですね。

 

以降、特に気になった章をピックアップしてメモしていこうかと思う。

 

第3章「ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?」

自分の卒論のテーマからして1番目を引いた章ではある。

それはそれとして、「面白いな」と思ったのは、ナチ体制に関する研究で、1990年代に「体制への『同意』」論が出てきていたという点。

ファシスト体制の研究においても1960年代から出てきた話ではあるんだけど、ナチ体制の研究でも同じような議論が出てきていること自体が興味深かった。

 

で、タイトルにもなっている「熱狂的」な「支持」について。

個人的には、(プロパガンダも多分に含まれているであろうとはいえ、)本書の文中にもある通り、ナチ体制への民衆の反応といえば、熱狂的にヒトラーを迎える群衆の映像のイメージが強い。NHKの「映像の世紀」とかでよく見られるやつ。

それ自体は当時の「支持」の形の一面ではあるだろうけど、それが全てという訳ではないし、切り取り方とか捉え方によっても見え方は変わってくるし。それは現代でも特に変わらず、って感じだろうし。

 

第4章「経済回復はナチスのおかげ?」

読んでいて、1番アップデートされていない知識が多かったな、と思ったのはこの章だった。まあ、他はそもそも初見の話も多かったので。

アウトバーンの用途とか、建設目的でよく言われてた「軍事利用」は既に否定的な説になっていたのね……。特に知識をアップデートしようと思っていなかったのもあるけど、この章を読むまで知りませんでしたわ。

 

第6章「手厚い家族支援?」

前章(第5章「ナチスは労働者の味方だったのか?」)からの流れではあるけど、ナチスの政策がナチスに特異なものだったかをざっくり理解するのに、本章に出てきた下記引用文が分かりやすいな、と思ったので。

このように、ナチスによる家族政策のほとんどはオリジナルなものとは言えない。前章で歓喜力行団について論じたように、ナチスの政策は多くの場合、どこかしらからの「借り物」であることが多いのだ。ただし、たとえ「借り物」だとしても、他国の政策よりもかなり徹底して実施したということは言えるかもしれない。*2

確かに、全体を通して読むだけでも、そういえばイタリアでも似たようなことやってたよな、と思い当たるものはあったし。ただ、他国よりも「かなり徹底して」いたと言われると、なるほどな、と。

 

政策の背景についても、ナチスが「良いこと」をした、と主張する人が思うものではないし、そもそもその政策によって期待した効果は得られなかった、というのも、正直苦笑いしか出なかった。

結局、「良いこと」と主張される政策であっても、最終的にはいわゆる「悪いこと」である思想・主張から来ているものだということが分かりやすかった書籍だったと思う。

 

まとめ

本書における著者の主張(〈意見〉)は「ナチスは「良いこと」をしていない」に尽きるのではないかと思う。

ただ、それを主張するために、ナチスの政策にあまり馴染みのない人間でも分かるよう、〈事実〉と〈解釈〉を整理した上で〈意見〉を述べていたのでとても分かりやすかった。

これを踏まえて、もう一度自分の専門分野を学び直したいな、と思える文章だった。

*1:記事本文にも書いたけど、卒論で扱ったテーマが「大衆の体制への『同意』」だった。そもそも個人の意見・見方なんてそうそう史料に残されていることもなく、残されていたとしても、その残され方によってはそれなりにバイアスが掛かっている可能性がある訳で。そういう訳で、〈事実〉と〈解釈〉と〈意見〉の切り分けは特に意識しないといけなかったというか、意識しないといけないとは思ってたんだけど境界が曖昧になっていたと思うので、大分反省点。

*2:小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』岩波ブックレット、2023年、p.76